融資が決まらない限り、あらゆる支払いは成立しません。確実に融資の実行を得られるように、複数の銀行にお声をかけます。お声をかける際には必ず、複数の銀行に相談している事を正直に伝えるようにします。
銀行担当者の時間を頂いて、融資の可否を検討して頂いている以上、相手に敬意を払って、交渉をしていくことが大事です。
私達が開業支援をする際の実績としては金利1%前後です(2018年6月現在)。
ただし、「1%の金利で借りれますよ」と安請け合いはしていません。先生の年収、キャリア、他の債務、資産背景、事業計画によって、銀行に提案して頂ける条件は大きく変わるからです。加えて、開業場所の近くに何銀行の支店があるか等も銀行の提案に影響します。
それらの要素を全て加味して予言できるコンサル会社は存在しないはず、というのが持論です。その上で実績を披露すると最低で0.7%の金利で借入をすることができました(東海地方の歯科、個人開業)高く付いてしまったなぁという時で1.8%でした(関東地方の歯科、個人開業)2%以上の金利であったり、リース会社によりリース契約や割賦契約が不必要に多い場合は、「おかしいな?」と検討しなおしても良いかと思います。
【ローンシミュレーションの図参照】
8,000万円の融資。返済期間10年間(1年間は返済猶予)。
金利が1%と2%の場合。表のように金利1%の差で合計400万円以上の差額が出ます。
融資の総額は予算多めにお伝えしましょう。
融資の申込時点で内装設計が細部に渡ってきまっていたり、導入する医療機器が全て決まっている事はほぼあり得ません。
関係者との打ち合わせで、大まかな予算を決めて、融資の計画を立てます。
銀行の手続き上、一度決まった融資額を上方修正するにはとても大きな労力がかかります。一方、少々の下方修正であれば、柔軟に対応頂けるケースが多いです。
運転資金には、入金及び支払いのスケジュール上、絶対的に必要な資金と事業計画に対する担保資金の意味合いがあります。
双方を合わせて、1500~2000万円の運転資金を申込むべきだと考えています。
保険診療報酬の仕組み上、保険点数の約7割分は2か月後の入金になります(4月診療分は6月20日前後に入金)。
また、物件賃料は前月末までに支払いが必要です。支払いが早く、入金が遅い以上、黒字になってもお金が必要という状況に必ず出会います。事業計画に対する担保資金とは、事前に立てた事業計画通りに成績が推移しなかった場合にも、数ヶ月間持ち堪えることができる運転資金を開業前に借りておけば、金銭的なプレッシャーを抑えて、挽回の為の手を打つことが可能です。
ちなみに開業後に融資を受ける事は、かなりハードルが上がります。貸す立場になって考えた時に「開業後の業況が思った以上に悪かったので、お金を貸してください」という要望に応えたいと思えるかをイメージしてください。
但し、ハードルが上がるだけで、無理とは言いません。相応に高い金利や返済条件を覚悟する必要があります。経営に不確実は付き物です。「患者が思った以上に来ない」「従業員が辞めてしまい患者対応ができない」といった事態にどう対応するかが、経営者としての手腕の見せ所です。不測の事態は起きないと思い込み資金を残しておかない経営者と、事態に備えて資金を残しておく経営者、どちらになりたいかの問題でもあります。
最後に、運転資金が余ってしまった場合については、「おめでとうございます」。それは院長の手腕によるものです。運転資金に対する金利のみ余計な出費となってしまいましたが、安心をとても安く買ったと解釈しましょう。
テナント開業の場合、「設備資金が最大15年、最低でも10年。」「運転資金が最大15年、最低でも7年。」を目安とし、なるべく長期にすべきです。返済期間が短くて得をするのは、返済期間が短いことによる金利部分の僅かな差だけです。毎月の返済金額が大きい事による金銭的及び心理的プレッシャーに比べると小さい金額です。「早く返済して無借金にしたいなぁ」と考えた先生、素晴らしいです。その気構えで事業に資金を貯めていくとして、返済期間は長く設定しておきましょう。後から返済期間を長くすることは原則できません。
融資を受けた際にいつから元金の返済を開始するかは交渉次第です。「借りた時から支払いをしなくて良いの?」という質問を良く頂きますが、その答えは「利息分は払う必要がありますが、元金部分については契約次第」です。私達が開業を支援する際には「開院から1年間の元金返済猶予」を目安に交渉します。
担保を入れて融資を受けることは推奨していません。私達が開業支援をするケースは無担保を絶対条件にしております。担保を入れた場合、完済を迎えるまでは資産を抑えられていることになります。万一の際は、資産を差し押さえられます。
担保がトラブルとなって相談に来られたケースをご紹介します。融資を受ける際に、お父様所有の土地を担保に設定した。数年後お父様が他界され、兄弟との相続で、土地の持ち分が半々に分けられました。
銀行より、担保の総資産価値が下がったので追加での担保を要求された。そのケースでは銀行に掛け合い、追加担保は設定されずに済み、完済を迎えましたが、相談がなければ、更なる資産を担保設定をされていたかもしれません。担保を入れて、金利が下がると言われた場合でも、金利を二の次にしています。その上、金利がとんでもなく下がるのかと言えば、そのような事もなく、無担保でも十分に出せる実績です。院長にとって、良いことが何一つないことを知ってください。
連帯保証人については当人以外誰も設定しないという条件交渉は可能です。
私達が支援をする際は、設定しない方向で交渉するものの、最後の最後に「連帯保証人が必要なA銀行。1%返済期間10年」と「連帯保証人が不要なB銀行。金利2%返済期間5年」のいずれを選ぶ際は、A銀行をおススメします。B銀行にしてしまうと事業運営がままならない可能性が出てきます。結果的に親族に迷惑をかけてしまうのであれば、連帯保証人の協力を得て、ある種の責任感を持って、A銀行からの融資を受けるのが正解だと考えます。
連帯保証人は借り手が返済不可と銀行が見なした場合、代わりに返済を要求されます。連帯保証人になる方から見た最大のリスクは「院長が病気で働けなくなること」です。
医療保険でリスクヘッジできる場合もありますが、返済を全て賄う程の保険金を設定するには保険料が高額になりがちです。
「院長に万が一があった時は?」とよく質問をされますが、返済用の死亡保険金を設定した生命保険に入っていれば債務の整理は可能です。
~ 連帯保証人を事後に外す方法 ~
医療法人化することで、借り手を医療法人、連帯保証人を理事長個人に設定しなおすことができます。医療法人化の目的の一つにしてみてはいかがでしょうか。
事業計画とはシンプルに言うと、「投資が利益を生み、利益が投資を回収すること」を説明するものです。よって、まずは初期投資額がいくらくらいかかるのかを計算することから始めましょう。医院開業における初期投資の主な項目としては下記の通りです。
物件の賃貸借契約に付随する初期費用です。賃貸料の3~15か月と物件により、大きく開きがあります。良い物件程、敷金が高くなる傾向にあります。
仲介手数料は物件を紹介頂いた不動産会社に払う報酬です。賃貸料の1ヵ月分かかると見込みます。礼金(物件紹介報酬)は0~2ヶ月分、これは物件のオーナーや、物件を探してくれたコンサル会社に対して支払います。
開業計画に於いて、最も費用がかかるといっても過言ではありません。
内装の豪華さや物件場所によって、工事費用に大きく差が出ます。
一概に基準値を出すことは難しいのですが、テナント開業の場合、物件の広さに応じて、坪当たり60~80万円程度の予算組みで工事代をイメージすると良いと思います。
また、内装工事はコンペができる場合、必ずコンペで業者を選定するようにしましょう。
金銭的に比較できるだけでなく、院長と業者様との相性の良し悪しも判断できます。
内装工事で一番やってはいけないことは計画以上に費用をかけてしまう事です。良いデザインを提案されて、追加追加で高い工事費用になってしまうというケースに気をつけましょう。追加予算が発生したとしても、銀行に対して要請した予算を超えないように、銀行に対しては予算を大きく伝え、内装工事業者に対しては予算を少なめに伝えることもポイントです。
また、内装は事業投資の一部です。一つ一つの決定に対して、「この箇所にこれだけの費用をかけるべきか?」と検討を怠らないようにしましょう。
内装設計料はかからない場合もあります。
内装工事業者に設計プランも検討頂ければ、内装設計料としての費用を請求されないケースがあります。
一方で、施工工事は行わない設計士に設計をお願いするケースは、内装設計料が数百万(過去最高は450万円)かかります。
① 設計士が設計のプロとして院長の考えを具現化できる。若しくは院長が考える以上の内装プランを提案して頂ける。
② 施工工事のコンペを行う際に、各候補会社に対して見積りのフォーマット作成、比較等でアドバイスを受けられる。
※各工事業者からのコンペ見積りは各社独自のフォーマットで提出される事が多く、単純比較が相当難しいケースが多いです。
③ 施工工事が設計通りに行われているかを設計士がプロの視点で確認してくれる。
① 設計士への報酬分が投資が増える。
「設計と施工を共にやってくれる工事業者にも設計料分の報酬は払っているから払う先が違うだけでしょ?」という質問を受ける事がありますが、経験上必ず設計士を別途にお願いした時の方が総投資額は上がります。
また、仮に分業したにも関わらず、同額の費用しか掛からないのであれば、設計士を使っている意味がありません。
② 設計士の予算意識が甘く、院長が希望する予算を超えた設計プランを提案するケースがある。
予算制限なく、良いものを作る事は簡単です。予算制限の中で良い提案をしてくれる設計士に仕事を依頼しましょう。
また、予算を超える提案をしてきた場合、「この提案は良いな…予算オーバーだけどお願いしたいな」と考えてしまう院長が非常に多いですが、この点をルーズに考えてしまうと危険です
。一事が万事にならないように、必ず予算内に収まるようセカンドプランを提案してもらうようにしましょう。
物件契約が済んだ段階で、医療機器業者(生産メーカーおよび卸ディーラー)との打ち合わせを開始しましょう。
自分が実現したい診療を叶える為の機器を選びます。必要な機器を漏れなくリストアップし、見積もりを提出して頂きましょう。
最初に頂いた見積もりで融資予算を設定します。融資予算とは別に、価格交渉をしましょう。
※卸業者様に対して、過度な相見積もりはあまり推奨していません。開業後も材料等の仕入れや情報収集の面で支援を受ける関係が続く以上、価格だけで業者を選定するのは得策ではありません。
「相見積もりを取らずに価格交渉ができるのか?」という質問をされることがあります。
十分、可能です。方法としてはお願いベースでの交渉です。「Aという機器は300万円で見積もりを出して頂いてますが、270万円になりませんか?」等、交渉をすれば良いだけです。
「数社を見比べた方が良いのではないか?」と考える方も間違いではありませんが、実は下記のような事も良く起きています。
Aという機器に対して、B社から290万円、C社から300万円という見積りが出てきたので、B社にお願いすることにした。
⇒本当は270万円で売ってくれる機器かもしれません。
ケース①の後、C社に対して「B社は290万円で出してきてるけど、安くならないの?」と聞きます。C社から「それでは280万円でどうですか?」と返答を貰えたので、C社にお願いすることにした。
⇒本当は270万円で売ってくれる機器かもしれません。
ケース②の後、B社に対して「C社が280万円で提案してくれたけど、安くならないの?」と聞きます。B社から「それでは270万円でどうですか?」と返答を貰えたので、B社にお願いすることにした。
⇒270万円で購入できましたが、一度値下げをして発注を取りに来たC社に不信感を残します。「結局、価格競争に付き合わされるだけだ。あの先生とはなるべく関わらないようにしよう」等と思われては肝心な所で損をする可能性もあります。
価格を競わせるのではなく、今後長きに渡って続く取引によって得られる利益を認識して頂き、機器投資の額を抑えて貰う事は十分可能です。また、結局の所、270万円がベストな購入価格であるかは分かりません。全国の取引結果を全て見比べられるわけではないので、院長の希望額をどれだけ叶えてくれたかを気にすれば良いと考えます。叶えてくれたことに対しては、開業後の材料購入で感謝の意を表しましょう。
内装工事でどこまでの家具が揃うかを意識するようにしましょう。内装工事に含まれない家具をどれだけ用意しなければいけないかをリストアップし、大まかな予算を組みます。300万~400万円程を予算として抑えておき、可能な限り節約するという手段も取り得ます。
大まかな予算としては、内覧会費120万円。HP作成代100万円。印刷物作成代30万円。を見込みます。
工事期間中も賃貸料がかかる物件の場合は、初期投資として予算を組みます。
1,500~2,000万円 ※上記参照
売上は「保険診療単価(6,500円)×患者数+自費診療単価×患者数」で計画を立てます。
保険診療単価は外科系の診療が多い先生、新患対応が多い先生は上がる傾向がありますが、概ね1来院当たり6,500円(650点)で考えると良いかと思います。患者数については、背景人口から推定する手法、WEBの検索ボリュームから推定する手法、ディーラー様から情報を得て検討する手法、等、多様な方法で検討していきます。
一番重要な点は、院長が計画に納得感を持てるかだと考えます。自費診療の売上については、目標とする自費率から検討することも可能です。自費率の目標を20%とした場合、保険売上が800万円であれば、自費は200万円になります。自費売上200万円を達成する為にはインプラント治療(30~40万円)だけなら5~6名。等、どの治療でどの程度の売上を見込むか等を検討していきます。
開院後、売上計画は「基準」となり、成績の良し悪しを検討する際に使っていきます。
その際には「良し悪しの結果」に終始するのではなく、なぜ良いのか、なぜ悪いのかといった「原因」を究明していくことが大事です。
売上に伴ってかかる費用を「原価」といいます。例えば、歯科の技工料は原価に分類されます。売上が1,000万円の医院には100万円程の技工料がかかり、売上が2,000万円の医院には200万円程の技工料がかかるといったように、売上に対して一定の割合で増減する費用です。診療科目や診療方針によって、想定すべき原価は変わります。目安としては医科で10%、歯科で20%。
人件費を計算する際は、募集する職種別に「月額給与」を想定し、必要人員を想定します。
この際に見込まれる残業代も忘れずに想定しましょう。給与に付随する費用として「法定福利費」という物があります。法定福利費とは聞き知った言葉に言い換えると、「健康保険料」と「厚生年金保険料」です。従業員に保険証を持たせ、将来の年金を蓄えて貰うために、一定の割合で雇用主が給与とは別にお金を用意する必要があります。
他にも「雇用保険料」「労災保険料」等も雇用主の負担が発生します。一般的に「社保」と言われる「健康保険」と「厚生年金」に加入をする場合は、給与の約15%を法定福利費として見込んでおくと良いかと思います。→「保険証と年金をどう考えるか?」参照
他には「賞与(ボーナス)」も人件費の予算に見込む必要があります。
必要人員の想定については、「売上計画を達成する為に、何人のスタッフを用意すべきか?」という考え方と「想定した人数のスタッフをこの売上計画で抱えることができるか?」という考え方を組み合わせて適正な人数を検討していきます。
その他の経費も忘れずに想定しましょう。それぞれの経費に対する考え方は下記の通りです。
【広告宣伝費】
患者獲得の為の、経費です。
ホームページや駅看板、野立て看板等を出す費用になりますが、一番コストパフォーマンスが高いのは、ホームページにお金をかける事だと思います。地域によって、広告宣伝費の予算は変わりますが、最低でも月5万円以上の予算を見込むべきです。
患者獲得を目的とする費用なので、広告の効果測定は確実に行い、費用に見合った集患ができているかを確認することが大切です。
【減価償却費】
開業時に行った初期投資は国が資産毎に定めている経費化のルールに従って、数年間かけて経費処理をしていきます。
例えば、新品購入の歯科用診察椅子を280万円で購入した場合は、毎年40万円、7年間に分割して経費にしていきます。
初期投資額から減価償却費をシミュレーションしていきます。
【地代家賃】
医院の家賃です。出店時に交渉して決定致します。
安いに越したことはありませんが、好立地の物件で高収入を上げる為には、高い家賃を払う必要もあります。
見込める売上に対して、割高感がないかがポイントになります。
【消耗品費(医療材料以外)】
5万円/月を見込んでおきます。余計な物は買わないようにしましょう。
【水道光熱費】
診療科目にもよりますが、5万円/月~最大10万円/月を見込みます。
【旅費交通費】
院長を含めた従業員全員の交通費です。
院長の自宅から職場までの交通手段や雇用する人数次第で予算を検討します。
【支払手数料(支払報酬)】
コンサル会社や税理士さん社労士さんへの報酬。
セキュリティシステム等、医院を運営する為に必要な業者への支払いをこの項目で見込みます。
【保険料】
医院の火災保険料等がここに相当します。
設備投資額と保障内容にもよりますが、1~3万円/月を見込みます。
院長に万が一があった際の生命保険は事業経費にはできませんが、確定申告の際にほんの一部だけ、所得控除として経費に換算可能です。